家が近くて仲の良かった友達の家に泊まりで遊びに行く約束をしていた。
その子の家は直線距離で100mくらい。
私はマンションの中ほどに住んでいて、彼女は商店街の中にある3階建ての一軒家に住んでいた。
彼女の家の3階バルコニーと私の家のベランダが向き合っていて、夜、あたりが暗くなってから固定電話で通話をしながら懐中電灯でモールス信号ごっこをする仲だった。
(モールス信号ごっこは、とりあえずお互い懐中電灯をチカチカさせるけど、何を言ってるかは全くわからない。)
彼女の家にお昼ごろからお邪魔し、ひとしきりパソコンゲームをやり、ハムスターと触れ合い、夜ご飯をごちそうになる。
そこで出されたなす味噌を一口。
…甘い。(いや、とてもおいしいんだよ。)
とても甘みが強調され、コクのある、まろやかななす味噌。
ここまで甘いともはやほとんど甘みしか感じない。(とってもおいしいです。)
その頃の我が家の食卓の味付けは、極力砂糖を使わない方針だったようで、煮物や炒め物などはほとんど甘みを感じることのないワイルドな味付けをしていたので、そのギャップにショックを受けた。
お風呂では家族それぞれ専用のシャンプー・リンスを揃えてあり、他の人は使ってはいけないそうだ。
バスタオルも自分専用のものがある。
忘れてしまったけど、他にもいろいろ彼女の家にはルールがあったのだけは覚えている。
我が家のお風呂ではシャンプーは全員共用、バスタオルも共用。(ちゃんと洗うよ。)
どこの家庭にもその家庭のルールというものは存在するんだと思うが、我が家にはそれが薄かったので、新鮮でもあった。
そして翌朝のメニューは彼女のお母さんお手製フレンチトーストだった。
淹れたてのカフェオレをすすり、フレンチトーストを一口。
…甘い。(いや、おいし……えっ??お菓子だよね。コレ。)
パンには卵液がじゅわっとしみこみ、外はこんがり中はふわふわでとてもおいしい。(お菓子として。)
―ここで、なぜ私がフレンチトーストにこんなに疑問を感じているか理解できない方のためにご説明しておく。
実は、我が家のフレンチトーストは、しょっぱい。
卵液には卵・牛乳・塩コショウ。
卵液にパンを浸し、バターで両面をこんがり焼く。
なんとそれにケチャップをかけて食べるという文化があったのだ!!
そんな異文化を持つ私が、彼女の家のフレンチトーストを食べて衝撃を隠せないのはしょうがない。
当時の私はフレンチトースト=甘いものという図式が頭になかったのでめちゃめちゃ混乱していた。
あれ、甘い。甘いよね。甘い?これ、フレンチトーストでいいのかな?
そんな疑問が頭を駆け巡り、彼女にこのモヤモヤした疑問をぶつけてみようと横を見たその瞬間、私が目にしたのはさらに衝撃的な光景だった!
私「ねぇ、このフレンチトース、ト…」
彼女「ん?」
彼女の手に握られているスティックシュガー3本。
2本は彼女のカフェオレに沈み、1本はフレンチトーストの上にまんべんなく振りかけられた。
彼女「いただきまーす!」
まるで漫画のように口をあんぐりさせたのはあれが最初で最後かもしれない。
他人の家のルールと、自分の家のルールとをあれほど意識させられた日はなかったように思う。
彼女の家に比べれば私の家のルールなんて大したことないなんて思っていたけど、実はしょっぱいフレンチトーストの方が少数派だったことに後から気づいたのだった。
彼女の家の卵焼きは、もちろん甘い。
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今回の教訓
・どこの家にも家庭のルールが存在する。
・自分の家にルールなんてないと思っていても、よそから見れば結構がちがちのルールだったりする。
・お砂糖はほどほどに。